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必要とする人に貸していくためのビジョン

格差社会といわれる現代、低位層にあるとされる人々の中には、まさに生活保護を必要とする人々もいれば、厳しい中でも金融サービスを活用することでうまく生活資金をやりくりできる人もいます。多重債務者を出さないというかけ声の下で、こうしたすべてをひとくくりにして貸さないようにするということが果たして正しい政策なのかどうか、大いに疑問です。むしろ、リスクは高くても返済能力のある人々の健全な資金ニーズに応えていくにはどうすればいいのか、それを担うのは誰であり、どういう仕組みをつくれば適正な貸付けを行っていくことができるかを考えていくことのほうが、よほどいまの時代の要請にかなうことなのではないでしょうか。

消費者金融は、サービスを独自に進化させることによって大きく伸びてきたビジネスです。黎明期を担ってきた人々の証言に接し、この時代の消費者金融は、いまの人々が感じているよりもはるかに一般の給与所得者にとって身近なものだったという印象を受けました。私自身、この時代に若い経営者たちが何を考え、どのように自分かちの思いを形にしていったのか、もっと多くの関係者から生々しい話を聞いてみたいものだと思います。

しかしその後の急拡大時代において懸命に事業の合理化に取り組み、多店舗展開の推進によって近代化を果たしていった一方で、消費者金融業者と利用者との距離が少しずつ開いていったように感じられるのも確かです。「個の時代」「大衆の時代」といわれる現在、消費者金融がもっと利用者の近くにあった時代を担ってきた人々の経験に学ぶことは、これからのリテール金融のあり方を模索していくうえでも非常に意味のあることではないでしょうか。

いま消費者金融各社には、事業の持続可能性を探っていくという大きな命題が与えられています。貸出上限金利と貸出額が制限されているなかで、どうすれば高リスクの資全受容者に貸していくことができるか、彼らを多重債務者にせずにすむかという発想から、長期的な事業ビジョンを打ち立てていくことこそが、いま消費者金融業界に投げかけられた大きな課題です。黎明期の消費者金融業界が築き上げた理念やノウハウを見つめ直すことで、これからの顧客との密接な関係づくりにおいても、新たな可能性を探っていくことができるものと思います。

黎明期の消費者金融

長い年月にわたって続いているビジネスには、昔ながらの家業が時代に合わせて変化してきたというものが少なくありません。反物の染め屋さんが染色を探求するうちにプリントの技術をきわめ、プリント基板など半導体の分野に進んでいくといった例は、ある意味できわめて日本的な産業発展の形態であり、ビジネスの「持続可能性」について考える際にも、ここからは多くのヒントを得ることができます。

黎明期の消費者金融は、質屋などが長らく担ってきた庶民金融に代わる斬新なビジネスとして誕生し、時代や利用者ニーズの変化を敏感に察知しながら現在の姿にまで進化してきました。銀行が両替商であったときの形態から大きく変わっていないのに対し、同じ金融業の中にも、こうしたいかにも日本的な発展を遂げてきた分野があるということは、私にとっても実に新鮮な発見でした。消費者金融の特性は、いうまでもなく「個人」を対象としていることです。

いま、あらゆる産業がリテールの金融ビジネスに照準を合わせようとしている中で、消費者金融業界が個人という容易につかむことのできない相手を対象に、融資をして返済してもらうという緊張感のあるビジネスを長きにわたって続けてくることができた背景には、黎明期において独自に培われた高度なノウハウがあったからこそだと思います。個人向けにどのように商品開発を行い、仕組みを説明し、個々のリスクを測定し、円滑に返済してもらっていたのか。消費者金融の事業モデルがどのように多様化していこうとも、顧客とのこの密なコミユニケーションづくりの技術には、リテール金融が常に回帰すべき”原点”があるように思います。

消費者金融か生まれた時代、日本経済は高度成長期にあり、給与所得者には旺盛な資金需要がありました。所得は右肩上がりに上昇し、返済に対する懸念も少なかったことでしょう。では拡大の時代ではない現在、黎明期の消費者金融が培ったビジネスモデルはもはや通用しないのかといえば、むしろ給料の上がらない時代だからこそ、一般生活者にはより切羽詰まった資金需要があり、消費者金融には持てるノウハウを最大に駆使してこれに応えていくべき使命があるものと思います。

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